住宅の建築様式2
前回に引き続き、今回もまた建物と地域性のお話です。「おいおい、鉄道の話は無いのかよ?」というお声もあろうとは思いますが、まぁそう言わずにお付き合い下さいませ。 今回新たに追加したのは「本棟造」という様式の大柄な民家です。南信地方独自の建築様式ですので他の地域にお住いの方は見慣れないことと思いますが、信州をイメージさせる建築のため蕎麦屋の大型チェーン店などでこの様式、またはそれを模した造りをご覧になっているかもしれませんね。 おおまかな特徴としては左の画像のように平屋+屋根裏部屋、妻入り(妻側に入り口がある)で勾配の緩やかな切妻屋根、平側と妻側の長さが同じくらいか、むしろ妻側の方が長いなど。専門家や地元の方に言わせれば他にも細かい定義付けが諸説あるようですが、生憎こちらは余所者かつド素人。先に挙げた程度の特徴を持っているモノは亜流や末裔も含めて本棟造りにカテゴライズしてしまいましょう。 前回の記事で建築様式における格式の話をしましたが、この地域では例外的に本棟造りが最上級とされていたようです。中でも立派なものには“雀おどし”と呼ばれる棟飾りが設けられていますが、今回のストラクチャでは汎用性の高い、「ちょっと立派な農家」クラスに仕立てたかったので省略しています。屋根は建築当初は石を載せて押さえた板葺きだったものを、後から新建材で葺き替えたという設定で、それ以外は原型をよく保ったスタイルに仕上げました。 もう1点、こちらは形状こそ似ているものの年代が下り、格式の点からも本棟造りに分類するのはチト無理があるような外観ですが、本棟造りの流れを汲んだ近代住宅と解釈して良いでしょうか。外壁は安っぽいトタンの腰板で、屋根周りの装飾を一切廃した実用重視の造り。窓配置から察するに、近代住宅とさほど相違ない間取り。屋根の角度が上のモノと比べて少し深いのは、最初から瓦葺きとした屋根重量を逃がすためと、屋根裏部屋の有効スペースを大きく取るためでしょう。元々屋根裏部屋は養蚕(絹糸の原料ね)産業に使用することが多かったのですが、それが衰退した後は部屋として、物置として使われるよう時代とともに変化しています。 ちなみに軒下に収納されている材木は、収穫した稲を干すときに組んで柱にする“ハザ木”。農村部で見かけた方も多いと思いますが、コレがあるということは稲作農家ということになります。 七久保~伊那本郷間に配置していたストラクチャのうちいくつかを新作に置き換えました。種類が増えたことでより自然に、そして地域独自の建築様式を取り入れたことで、より伊那谷らしい風景に近付けたかな? と思います。 冒頭にもおことわりを書きましたが、運転シミュレータでは添え物にすぎない建物に大きな労力を割いているのは、ひとえにご当地感を演出するため。実際の路線に乗ったことが無い方がプレイされたとしても、「あぁ、いま自分は飯田線を運転しているんだな~」という気分が自然に湧いてくるような、そんな路線データに仕上げるための重要な要素の一つが建築様式なのです。 以前にも単線で列車密度が低い地方路線は風景無しで面白味を出すのが難しいと書きましたが、かといって何でもいいからと適当にあり合わせの風景を付けただけでは、どこの路線をプレイしても同じような感想しか抱けません。九州には九州の、北海道には北海道の、そして信州には信州の景色を付けてこそ、製作時間の増加やデータの重量化というデメリットを抱えてまで風景を付ける価値が出てくるのではないでしょうか。 また実在路線に限らず、BVE界の中で度々その是非が問われる架空路線にしても、そうした地域性の表現などができれば「いかにもありそうな」架空鉄道として、ある程度リアル派にも受け入れられるモノが出来るんじゃないかと思いますが、どうでしょうか?